エアロハウスTGが、2019年度の「ウッドデザイン賞」を受賞した。
ウッドデザイン賞とは、木の良さや価値を再発見させる製品や取組について、特に優れたものを消費者目線で評価し、表彰する新しい顕彰制度だ。これによって“木のある豊かな暮らし”が普及・発展し、日々の生活や社会が彩られ、木材利用が進むことを目的としていると、林野庁が定義している。
エアロハウスの選考された具体的案件として、東京都あきる野市にある「エアロハウスのTGタイプ」がある。この建物は、2015年に竣工したピロティ付きの2階建てのシンプルな建物だ。
もともとは、施主のSさんから、動く家という発想からのオーダーだったそうだ。Sさんは、家を建てることによって、そこの場所に固定されてしまうことに抵抗感があった。もっとも、実際に、どこかに家を移動する予定があるわけではない。
ただ、その気になれば、移設できる家なんて、考えただけで楽しい気持ちになった。もっとも自分の家を建てるということが、心理的に重いと感じたからだと当時を振り返る。
Sさんは、すでに実家から独立していて、立川寄りの賃貸住宅に住んでいた。持ち家へのこだわりは無かったが、たまたま犬の散歩をしていたら、竹林だった一角が造成され、売り出されていた。その見晴らしの良さから土地の購入に動いた。2012年のことだった。山々や街並みが一望できる。
しかし、購入したは良いが、具体的にどんな家が良いか、何も考えていなかったことに気付いたとSさん。分譲された他の土地には、次々に家が建っていったのだが。
気軽に建てたいと思い、トレーラーハウスやコンテナハウスを検討したところ、たまたまエアロハウスのwebサイトに出会った。
Sさんは、タイニーハウスのように、それほど広いスペースを必要としなかった。エアロハウスの村井氏には、大きなワンルームのようなイメージでと伝えたそうだ。それこそ、トイレのドアさえ不要と考えた。最終的には友人を招いたときの為にドアを取り付けたが。
基本プランは、高床式のピロティ付きの2階建てにした。その無骨なピロティの雰囲気をSさんは、気に入っている。また、その場所をフリースペースとして、将来的に何か活用したいと考えているそうだ。発展していく家というイメージを持っている。
高床式のような2階部分が、エアロハウスTGの本体である。Sさんの家は、崖地側に建ち、その2階が生活の中心であり、窓が開けっぱなしの生活に憧れがあるそうだ。窓からの景色を楽しめるのも特長だ。
Sさんに案内され、外階段を上がり、部屋の中に入ると、木に包まれた、独特の心地よさを感じた。
設計した村井氏によると、この建物は、すべての木材が構造になっているという。ログハウスのようなアイカギの接合方法をとり、頑丈な木の組み合わせだという。床と天井と壁の2面が組み合わさった「ロの字」をした箱になっていて、その箱のサイズが、奥行きが約2メートル×幅が約6メートル×高さが約2.5メートルになっていて、ここのS邸では、その箱を4つ並べて組み合わせたものになっている。
無垢の太い木材は、断熱性能も高く、まるで木の塊の中に住む感覚だ。金属をほとんど使っていないのも特長だ。床、壁、天井に至るまで厚さ120mmの木に覆われた空間になっている。つまりログハウスと同様な無垢木材の断熱に加え、さらに外断熱パネルを施したので、高い断熱性能が実現した。
さらに木の空間がなぜ、心地良いのか。それについて、村井氏が解説を加える。
例えば、エアコンの温度設定というのは、空気中の温度であって、木の空間の場合とコンクリートの空間の場合とでは、両者の体感が大きく異なるという。それは、コンクリートは、熱を伝えにくく体温を奪うからだ。木は人体の熱をほとんど奪わないので楽なのだ。
ところで、Sさんは、竣工後も、家づくりを楽しんいるという。完成しない家というコンセプトも、エアロハウスにはあり、DIYを楽しむ施主さんが、これまで多くいた。
例えば、こちらの家では、天井が低いということで、Sさんは壁に照明を付けることを希望した。さらにライティングレールにすることで、照明の位置も好きなところに配置できる。Sさんは取り敢えず裸電球を配置した。シンプルな裸電球も良いが、いつか気に入った照明が見つかれば、変えるつもりだ。
電源のスイッチもクラシックなものにしていて、施行前にフランスの「蚤の市」で見つけたものだという。
Sさんは、デザインの専門学校を卒業されていて、骨董品には目がないようだ。実際に置いているグッズのセンスが良く、エアロハウスの木の空間とのコントラストが似合う。
今後は棚を作ろうと思うとSさん。自分の好みの家づくりは終わらないようだ。
さて、村井氏は、このエアロハウスTGの特長としてもう1点付け加えておきたいという。
それは、製造工程の革新性だ。このSさん宅は、4つの箱ユニットを並べたと表現したが、そのユニット自体は、工場で製造してトラックに積んで持ち込むので、半分、先に家ができているようなもの。
その結果、品質管理と工程管理が事前にでき、「建て方」時点で木の内装は完成している。
つまり、僻地で大工仕事をできる人が少なくても、建設が可能になる。人口減少で、大工さんがいないからという理由で、新築ができなかったことが解消されるだろう。さらに杉、ヒノキなどの地域材の活用もでき、地域の特長も取り入れられる。
家づくりの概念が刷新され、今後、広がっていくかもしれない。