「エアロキャビンが開いた、海と空の宿」―瀬戸内・倉橋島で叶えた新しい宿泊のかたち
- Konomatsu
- 10月30日
- 読了時間: 4分

心をほどく、ミニマルという贅沢
Tiny House ZEN 倉橋島は、瀬戸内海に浮かぶ倉橋島の静かな入り江に佇む、一組限定の宿泊施設です。
ここにはテレビも時計もありません。ただ静かに波が打ち寄せる音、木々が揺れる気配、朝陽や星空といった自然のリズムが宿泊者を包み込みます。
「余白を感じる宿」「自然との佇まいを味わう宿」をテーマに、暮らしの原点を見つめ直す場所として設計されました。
目指したのは、設備の豪華さではなく、心が整う“時間と空間の質”。
小屋ごとに機能を分けるというユニークな構成は、生活動線にゆとりを持たせ、屋外で過ごす時間さえも楽しみへと変えてくれます。




3棟の小屋でつくる、ひとつの宿
宿は「寝る」「くつろぐ」「整える」など、生活の基本動作をそれぞれ分けた3棟の小屋から成り立っています。
これらの小屋は、**ウッドデッキとバーコラ(木製格子構造)**によって緩やかにつながれ、外との境界を曖昧にする設えが施されています。
開放的でありながらも、どこか守られているような、ちょうどいい距離感。
水回り(トイレ、シャワー、洗面)などは現地で施工され、生活に必要なインフラ(電気・ガス・水道)も完備されています。
それでいて、建物全体に漂うのは、無駄を削ぎ落とした“軽やかさ”と“静けさ”。
あえてテレビやデジタル機器を置かず、「自然とともに在る時間」に焦点をあてた設計です。


土地との出会い、そしてエアロキャビンという選択
出会いは偶然。でも、直感的に「ここだ」と思えた。
当初は、より本格的な住宅型の「エアロハウス」での宿づくりを検討していました。
しかし理想の土地探しは難航し、計画はなかなか前に進みませんでした。
そんな折、たまたまこの倉橋島の土地と出会います。
目の前に広がる瀬戸内海、背後に火山(ひやま)の山稜――そのロケーションに心を打たれ、すぐに購入を決意しました。
地形的に道路から海が見えないという課題はありましたが、地元業者と協力し、盛土による視界の確保という解決策を見出しました。


事業再構築補助金の採択と、計画の転換
ちょうどその頃、事業再構築補助金の採択を受けることができたこともあり、宿泊施設としての構想が現実味を帯びていきます。
ところがその直後、資材と人件費の急騰という社会的背景の中、当初想定していたフルスケールのエアロハウス計画を断念せざるを得ませんでした。
そこで提案されたのが、「エアロキャビン」という選択肢でした。
軽量で、自由度の高い“空間ユニット”
エアロキャビンとは、エアロハウスの技術を応用した小型・軽量の建築ユニットです。
プレハブとは一線を画す、デザイン性と断熱性の高い構造を持ち、工場製作による高品質と、現地での短期施工を両立させる点が特長です。
トラックでの輸送が可能
シンプルながら洗練されたデザイン
居住性が高く、断熱性・防音性も良好
Tiny House ZEN 倉橋島では、このエアロキャビンをベースに3棟の小屋を神奈川県藤沢市の製作所であらかじめ製作し、現地まで800㎞の道をトラックで輸送。
その後、地元業者との連携により、デッキやインフラ施工、外構工事などを並行して行い、構想からわずか2か月で完成に至りました。


ここにしかない“間”を求めて
宿泊者からは、以下のような声が寄せられています。
「景色がとにかく最高。夜には満天の星空、朝は海からの光。こんな時間は久しぶりでした」
「秘密基地のような感覚。子どもも大喜びでした」
「本当に静か。テレビも時計もないけど、むしろそれが贅沢に感じました」
また、Booking.comなどのレビューでもロケーション評価は9.5という高評価。
自然との距離感や、空間そのものの質を評価する声が多く見られます。


制約の中に生まれた、“場の力”
Tiny House ZEN 倉橋島は、もともとの構想からはじまり、土地との出会い、計画の変更、時間と予算の制約…
さまざまなハードルを越えた先に誕生した宿です。
しかしそれらの制約があったからこそ、エアロキャビンという柔軟な構造、そして自然とのつながりを最大限に活かす設計にたどり着けたとも言えます。
この宿が体現しているのは、「宿泊」というよりも、「空間に身をゆだねる体験」。
一人ひとりの時間が加速していく現代において、“何もしない時間”の価値を再発見するための、小さな、しかし力強い拠点です。

Tiny House ZEN 倉橋島
Aerocabin “動庵”



