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川と森と空に抱かれて:ツリーハウスリゾートの挑戦

  • Konomatsu
  • 5月21日
  • 読了時間: 4分

沖縄本島北部、やんばるの奥地に、“空中に浮かぶような家”がひっそりと佇んでいる。緑深い森と清らかな川に囲まれたその建築が「エアロハウス」である。新しいかたちの宿としてコンクリートや鉄を極力排し、自然の風・光・音を取り込む構造で、「自然と共に暮らす」ことを目指した設計が施されている。


ここに到着するには、鬱蒼とした森の中をひたすら車で走った先にあった。本当にこの先なのかと不安になるほどの圧倒的な豊かな自然に驚いた。


さて、このプロジェクトを主導したのは、都内で企業経営に携わっていたKさん。人生の転換期を迎えた彼は、自然と共存を実現するツリーハウスリゾートを作りたいという強い想いから、この挑戦に踏み出した。


■ キャンピングカーから始まった「冒険」

エアロハウスの設計者、村井との土地の視察初日。電気も水も通っていないその場所で、泊まる場所は持ち込んだキャンピングカーだけだったそうだ。問題は、水の確保。ポンプを使い、近くの川から水を汲もうと試みたが、エンジンはかからず、暗闇の中での作業となった。

 

「何もない場所だからこそ、やれることがあると思ったんです。」

その体験が、Kさんにとって“冒険の始まり”だったという。


■ 子どもの頃の記憶を辿るように

Kさんがこの地を気に入った理由は、彼の原体験にある。幼少期、家族で軽井沢の別荘を訪れ、木に登ったり、秘密基地を作ったりして遊んでいたという。

 

「今の自分が好きな事は、あの頃と変わらない。自然の中で、自分の手で何かを作ること。」

 

この沖縄の地は、まさにその記憶を再現するにふさわしい場所だった。



■ 敷地の“特異性”が設計を動かした

エアロハウスが建てられた土地は、ただの自然林ではない。実は、敷地の中に川が流れているという、極めて珍しい地形なのだ。通常、河川は国の管理地であり、私有地に含まれることはほとんどない。しかしこの土地では、川の一部が民有地に属しており、特別な空間設計が可能になった。

 

「この川を“借景”にするだけじゃもったいない。暮らしの中に取り込む建築にしたいと考えました。」と村井は言う。


この発想が、エアロハウスの大きな特徴である“浮遊感”を生むことになる。


■ 設計コンセプト:自然と「対話する家」

エアロハウスの設計は、都市的な価値観とは異なるロジックで構築されている。設計のコンセプトは、「自然と対立せず、調和しながら対話する家」だ。

建物は地面に直接建てず、複数の脚で持ち上げることで、地形や水流を壊さずに設置されている。これは、構造物としての安定性だけでなく、浸水などのリスク対策でもある。


参考にしたのは、アメリカの建築家フランク・ロイド・ライトによる名作「落水荘(フォーリングウォーター)」。川のすぐそばに、あたかも自然の一部として建物を設けるという思想は、まさに今回の敷地にぴったりだった。


「建築は、周囲の環境にどう影響を与えるかが大切。目立つデザインよりも、風や音に馴染むことを重視しました。」と村井。


実際、建物は木々に溶け込むような静かな佇まいで、遠くからはその存在に気づかないほどだ。



■ 空間構成と暮らしの工夫

エアロハウスの内部は、約50平方メートル。これは都市のシティホテルのスイートルームと同程度の広さだ。長方形の建物ではなく、正方形に近い7メートル×7メートルの形状とすることで、視覚的な広がりと居住性のバランスが取られている。


大きな一枚ガラスの窓からは、森の緑と川の流れが室内にそのまま流れ込んでくるような感覚になる。ペアガラスではなく、1枚ガラスを使うことで視界を遮るフレームがなく、自然との一体感がより強調される。

また奥のフロアを1段高くすることで、大窓から緑の景色を見やすくでき、森の中にいる感覚が際立つ。


インテリアには、ホテルなどの商業施設も手がけるインテリアデザイナーが参画。棚や照明、家具は造作で仕上げられ、素朴さと高級感が絶妙に融合している。




■ ツリーハウスと共にある“遊び心”

敷地内には、エアロハウスだけでなく、複数のツリーハウスも設置されている。こちらにももちろん宿泊したり、自然体験のアクティビティスペースとして使われており、訪れた人々に「自然の中で過ごす楽しさ」を提供する。


ただし、ツリーハウスは“どこにでも建てられる”ものではない。ホストツリーと呼ばれる、構造を支えるに十分な樹木が必要であり、自然の条件に合わせて設計されている。そうした意味で、1棟ごとに“自然からの許可”を得て建てられる建築ともいえる。


■ 自然の中で、“人間らしい暮らし”を再発見する


「都市では当たり前だった“便利さ”がない分、自然の声に耳を傾けるようになります。風が吹く音、水が流れる音、それだけで心が整う。それが、本来の人間の暮らしだと思うんです。」と完成後に訪れた村井の感想だ。


エアロハウスは、ただの建物ではない。

自然の中に身を置きながら、人間らしさを取り戻すための「場」。そして、未来の暮らしを考える上での、一つのヒントだ。



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