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セルフビルドで、現在進行形で住まいづくりを楽しんでいる

更新日:2020年3月23日


今回紹介するのは、完成しない家。それは、住みながら進化する家のことをいう。エアロハウスを開発した建築家・村井氏が目指す理想の家づくりを体現している。「セルフ」「増築」という要素がキーワードだ。

完成から5年が経っているお宅を取材させていただく。屋内は、これまで見たことのない手作りの温もり感が溢れていた。雑然としているようで、面白さやこだわり感が伝わってくる。

アンティークの家具で、広いLDKを絶妙にゾーニング。スコップの柄を使ったハンガーをぶら下げる棒があり、クスッと笑ってしまうユニークさがうかがえる。脚立もオブジェのように佇む。次のリニューアルを見据え、一部の壁から柱がむき出しているが、それ自体がデザインのように見えるから不思議だ。住み手のセンスが伝わってくる。

H邸の奥様は、もともとセルフビルドで自邸を建てたいという夢を持っていた。美大を卒業後は、内装会社に勤務し、資材の特徴、仕入れや原価についても学び、さらに業界にも人脈もできた。さすがに大工仕事までは難しいので、いつかはハーフビルドで家を建てたいと情報を集めていた。



Hさんは、家族でアメリカから帰国後、神奈川県の葉山の地に賃貸住宅で暮らし始め、やがて丘を一望できる傾斜地に150坪の土地を購入することに。奥様は、ガーデニングや畑仕事など、自然と向き合える暮らしに憧れていた。特に無農薬での菜園への挑戦もあった。

そして、念願のハーフビルドの住まいを実現すべく、2008年にエアロハウスの事務所を訪ねた。将来は奥様の大阪のお母様がこちらで同居される。それを前提に「ハ」の字型に2棟を建てることにした。母屋は家族4人で暮らし、離れを母親の家になり、建坪は合計30坪。 「エアロハウスにとっても、こちらはセルフビルドを組み合わせた初のパターンとして印象深い」と村井氏。 心地よい家をつくるのは、最終的には住み手が積極的に関与するかどうかが重要なファクターだという。 予算が限られていたため、Hさん自身が関わることで、コストを抑えることができたようだ。 壁の漆喰塗り、床の塗装は自分たちで塗った。キッチンや洗面など水回りはIKEAで購入し、タイルや棚も自分たちでつくった。タイルは、奥様のデザインを友人の陶芸家の窯を借りて焼かせてもらうなど、つくっていくこと自体を楽しんでいる。できることは自分でやり、できないことは業者に頼むというスタンスだ。

エアロハウスは、大枠だけを提供して、そこからセルフビルドがスタートする。 この家の設計は、将来像も含みつつ、施行は途中で止めているのが特徴だと村井氏。例えば、二人の娘さんたちのために、将来は個室をつくる予定だが、現在は広いリビングになっている。しかし、つくることを前提に設計し、柱や壁が組まれ、窓をつけてある。 数年後にどういう暮らしをしたいかを想定し、リフォームしやすいようにあらかじめ設計している。水回りや窓の位置を変更するとなると大掛かりになるから、なるべく住み手だけで完結できるよう配慮。 もう1棟の離れは、母親が暮らせるようになっていて、窓から桜の木が正面に見える。現状は、準備中のキッチンがあるのみで、倉庫のようになっている。板が何枚も置かれていて、実際に暮らし始める際には、内装に手を入れる予定だ。 セルフビルドの醍醐味は、「つくること自体」が楽しみで、早く完成してしまっては、喜びが半減する。それを先延ばしにしながら暮らす。住み始めのころは、夜遅くまでかかっていたが、面白かったと奥様は当時を振り返る。

小諸や八丈島など、その後のセルフビルドのエアロハウスでは、どれも完成していないようだ。ゆっくりと制作を楽しみ、むしろ先延ばしにしている。住む喜びとつくる喜びが共存しているのだ。


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